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日本高等教育学会第12回大会参加レポート

  日本高等教育学会第12回大会に参加しました。以下、当学会と大会の概要をご報告します。


 高等教育への進学率が50パーセント近くなり、また大学全入時代も言われている近年、学生の学力保証や大学教育の質保証、FDなど広く世間の関心を集める対象となりました。大学研究や実践改善のためのセンターを新設する大学も多く、高等教育学研究者だけでなく、実に多くの関係者が目を向けています。

 そんな中、日本高等教育学会は「変動の時代をむかえていっそう明らかになった高等教育に係わる諸問題とその研究の重要性を考えるとき、学問領域の違いをこえた研究者等の結集と交流をはかり、研究の理論的、方法的基礎を強化し、研究の一層の深化発展をめざすとともに、その研究成果の普及を図り、実践的、政策的課題の解決に寄与するために、学会の設立は重要な課題」として先導的な高等教育学研究者によって1997年に設立され、会員数は600人を超えています。

 今回で第12回を迎える大会は、長崎大学で開催されました。大会は84の自由研究発表と3つの課題研究、シンポジウムが1つを2日間にわたって行い、その内容は、大学組織・経営、FD/SD、評価、学生調査、学生支援、大学と職業、社会人基礎力、国際化、と多岐にわたりました。2008年度の大会でも見られましたが、質保証、FD、学生調査、評価といった大学をどうするかという内容に発表数が多く、またオーディエンスも多い傾向が見られました。これらに共通する問題意識として指摘できるのは、いかにして現在の大学教育を改善するか、いかにして教育効果を上げるかであり、発表者やオーディエンスの多くから「(大学を)何とかしなくては」という危機感が感じられました。これを解決するために、上記のような多岐にわたるアプローチをとっていると言えます。

 大学がどうあるべきかというスタンダードのない今、大学4年間で身につけるべき能力の指針を打ち出した文部科学省の「学士力」は多くの関心を集めており、大会でも頻繁に言及されていました。しかし議論は錯綜しています。こうなったのは、高等教育の量的・質的変化をふまえず大学人がこれまで議論を怠ってきたからであるという厳しい指摘もありました。  今大会をアセスメント/テストという観点でみると、昨年あたりから大学生対象テストであるCLAやCAAP、MAPP(*)をはじめとした海外事例研究を目にするようになり、調査研究が継続されていました。しかし国内では、それらのような大学生対象標準化テストの開発は今のところみられません。学生の成長に関する研究も、達成感や満足度についての学生の自己評価によって大学教育と能力獲得との関係を分析しています。もちろん標準化されたテストの必要性は共有されていましたが、それだけに頼ることへの抵抗感や疑問視する声もありました。初年次教育や学生調査で学会をリードする濱名篤教授(関西国際大学)は、自己評価・他者評価、標準化テストを問わず、複数タイプのテストを使って学生の能力を多元的に評価すべきだとしていました。

 学会を通して大学教育をどうすべきかが盛んに議論されましたが、これからは各大学が実践してみるしかない、というところに来ているような感じも受けました。しかし大学は個性を求められる一方、共通の枠組みによる質の保証も求められ、非常に難しい状況に立たされています。しかし、今このような事態になっているのは、「大学がこれまで議論を怠ってきたから」(小方直幸教授・広島大学)だと言えます。今のところ画期的な大学教育改善策はありませんが、今大会で見られたように高等教育関係者が考え続けることは一つの重要な方策だと思います。次期大会は関西国際大学で開催予定ですが、どのような議論が展開されるのか、非常に楽しみです。

 *これらテストの詳細については、ニューズレター第8号をご参照ください。

(CRET協力研究員 伊藤 素江)

その他研究員 -Other Researcher-

学会レポート

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