CRETから、最新の教育・テストに関する学会レポートをお届けします。
日本テスト学会第9回大会 参加レポート
9月10~11日に株式会社ベネッセコーポレーション本社および岡山大学で開催された日本テスト学会第9回大会について報告します。
今回の大会のテーマは「教育におけるテストの今とこれから」でした。このテーマの下で、「子どもを見守る動的テスト技術」「世界的に見たテストの今とこれから」の2つの公開シンポジウムが行われました。特に後者においてはPISAやPIAACなどの国際的大規模アセスメント(山本健太朗先生、Educational Testing Service)、韓国の大学入学共通試験である修能試験(李庸伯先生、韓国教育課程評価院)、そして日本国内の高等教育におけるテストの活用(川嶋太津夫先生、神戸大学)について、それぞれの現状と将来の展望が議論されました。
今回の大会で報告が行われていた内容について概観すると、特に大規模教育テストの開発・運営の現状と展望に関するものが中心でした。上記公開シンポジウムに加え、英語・統計学・心理学など様々な分野における「検定」のセッションも企画され、作問や評価の方法、検定の抱えている課題や問題点などが議論されました。これらの国内外の大規模教育テストの多くは項目反応理論(IRT)に基づいて設計開発されており、IRTの実用がますます進んでいることをうかがわせました。
大規模テスト以外の話題としては、テスト等化に関する理論的・実践的な研究発表が多く見られました。また、潜在ランク理論に基づくコンピュータテストの開発に関する研究、看護学・歯学分野におけるテストにIRTを用いた開発・解析に関する研究、項目反応間の局所依存性の影響に関する理論的研究、テスト問題の分析に関する研究などの報告も目を引きました。
テスト等化の研究への関心の高まりは、先に挙げた大規模テストにおけるIRTの使用が背景にあるものと考えられます。古典的なテスト理論に基づく異なるテスト間の得点はテスト問題の難易度と受験者の能力レベルが交絡しており単純には比較できません。一方、IRTに基づくテストではどの版を受験してもテストの得点が同じ尺度上で表現され、受験者間で得点を相互に比較することが可能となります。しかし、継続的に実施されるテストにおいてはIRTを用いる場合でも等化の作業が必要となります。等化はテストの規模や実施形態によって様々な制約を受けるため、状況に応じて適切なデザインと方法を選択していくことが必要となります。こうしたことから、テスト等化の理論の発展と技術の向上は今後ますます重要な課題になると考えられます。
また、IRTに基づくテストでは得点が共通の尺度上で表現されるので、テスト得点と「具体的に何ができるのか」を対応づけることが可能です。こうした対応づけは、テストの妥当性の検証と相まって教育テストの価値を一層高めることとなります。今後は客観的評価基準に基づくCan-doに関する研究も増えていくと考えられます。
今回の大会は例年以上に参加者も多く、盛会でした。2012年の日本テスト学会大会は、東京医科歯科大学において8月21~22日の日程で行われる予定です。