CRETの学会レポート Colomn

CRETから、最新の教育・テストに関する学会レポートをお届けします。

第14回OECD/Japanセミナー 参加レポート
~"PISAから見る、できる国、頑張る国"における21世紀のための教育改革~

  経済協力開発機構(OECD)と日本の文部科学省が共催する第14回OECD/JAPANセミナーが2011年6月28日、29日に開催されました。毎年このセミナーでは、その時々のホットな教育政策イッシューをとりあげ、各国の教育大臣や政策関係者、また国内外の研究者が集まる場となっています。今回はPISA2009の結果が出て半年、またPISA2009のデジタル読解力の結果が出た直後ということで、タイトルは「教育の質の向上-PISAから見る、できる国、頑張る国(Strong Performers and Successful Reformers -Lessons from PISA)」でした。初日の参加者は380人、うち海外からの参加は90名とのことでした。

  PISAをテーマとしてはいますが、ランキングや、ある国の教育が進んでいる・遅れている、という議論ではなく、PISAという一つの指標を通して見られる各国の教育政策の変化や共通の課題を浮き彫りにするセミナーでした。招待された講演者の方々も、カナダ、シンガポール、上海、フィンランド、デンマーク、ポーランド、インドネシア、イギリス、アメリカ、そして日本と、バラエティに富む面々でした。OECDはピアソンと共同でセミナーと同タイトルのDVDも作成しており、上記のような国々の学校の映像や関係者のコメントが見られます。

  印象深かった点を二点挙げてレポートします。
  一点目は、各国共通の教育政策の課題です。どの国も、21世紀に必要なスキルをはぐくむことの重要性と、それをどのように教育に埋め込むかという問題に直面しているようでした。教育学者で、カナダのオンタリオ州の教育政策アドバイザーでもあるマイケル・フランが言うように、どの国も高度な思考スキル(Higher Order Skills)を教育政策のアジェンダにしているのです。一方で、高度な思考スキルに関するスタンダード、アセスメント、そしてそれらのスキルをどのように学ぶかというインストラクションについては、まだ具体化がされていないというのがフランの問題提起でした。
  CRETとして、この分野で何か貢献できることがあればと考えさせられました。 

  二点目は、教育改革の要は、個々の教師とプロフェッショナルなコミュニティとしての教師集団である、という共通認識があるということです。まずは、いかに教職に優秀な人々を呼び込めるかという入口の問題があります。これについては、教師の社会的地位が高く優秀な希望者からさらに選りすぐりの学生だけが教員養成課程に入れるというフィンランドの実態と、市場調査を行ってセグメントごとにテレビCMなども活用して教職の宣伝を繰り広げるというイギリスの政策の、2つの対極的に見える事例が紹介されました。
  また、個々の教師の優秀性だけでなく、チームとしての教職の重要性も示されました。アメリカのニューヨークに本拠地を置くAsia Societyのヴィヴィアン・スチュアートは、アメリカがアジアから学ぶべきこととして、教師の質の高さとチームで働く文化を挙げ、日本のレッスンスタディのように教師が互いに授業についてのコメントをしあう文化について触れました。マイケル・フランも、教育改革が"成功している"国々の事例を示しながら、教師同士のインタラクションやピア・ラーニングといった社会資本(social capital)こそが個々の教師の質である人的資本(human capital)を引き上げるのだと話し、学校内および学校間での教師同士の関係性をいかに構築できるかが重要であると説きました。
  国際アセスメントで国の教育政策への提言を行ってきたOECDが、学校および教師の実践までを射程においているという点は注目に値するかもしれません。 

 

(CRET研究員 中田 麗子)

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