CRETから、最新の教育・テストに関する学会レポートをお届けします。
第56回理数系教員のためのリフレッシュセミナー参加レポート
2010年3月28日、東京理科大学で行われた第56回理数系教員のためのリフレッシュセミナーの「新学習指導要領を外部から考える」というテーマのシンポジウムに、パネリストとして参加しました。
このシンポジウムでは、数学の新学習指導要領で重点化された「数学的活動」や「言語活動」について、そのような活動が果たして現状の数学教育を変え、子ども達に真の数学力を保証するのかどうか、次の3点を骨子として議論しました。
1.現在の若者の数学力について
2.社会における「数学的活動」や「言語活動」について
3.今後の日本人に必要な数学力について
1点目の数学力という点で、教育改革というと、たいてい学業成績が低い子どもに配慮した施策が講じられるが、浮きこぼれと呼ばれる成績上位層の子どもにも配慮して、質の高い学びを提供すべきではないかという意見や、学力というより学習意欲が低下しているのではないか、という意見が出て共感いたしました。
CRETで実施した大学生対象の統計・数理処理テストの予備調査結果を引用し、従来型の数学指導では身に付きにくい力として、数値結果を目的に応じて解釈する力不足について指摘しました。また大学生でも、小学校で習う植木算を間違えてしまう現象が見られましたので、基礎基本の重要性も力説いたしました。
2点目の、社会における数学的活動や言語活動という点で、図表や数式も、国語の漢字やカタカナと同様のコミュニケーションツールです。数学教科を通じて、いろいろなツールで相手に伝えることの重要性が強調されました。Realistic Mathematicsのオランダの数学教科書を見ると、図と数値、平面図と立体図、グラフと言葉、というように、同じ現象を複数の表現ツールで対比して見る習慣を育成しているのがわかります。
数学教科を工学や理学などの他教科と関連づけて学ぶことももちろん有用ですが、数学そのものの証明を、じっくり時間をかけて徹底的に考えるという習慣づけも、粘り強さを身につける上で必要なのではないか、という提言もありました。
最後に、日本人に必要な数学力について、資源のない国・日本での唯一の財産は人材です。産業構造の変化で、先の見えない世の中では、従うべきマニュアルはなく、何をすべきか自分で考えることが必要です。
未知の問題でも粘り強く考え、問題解決する力を身につけるのに、数学は適しているということで会場の意見が一致しました。
シンポジウムのレジメは、添付資料をご覧ください。