CRETから、最新の教育・テストに関する学会レポートをお届けします。
日本教育社会学会第61回大会参加レポート
早稲田大学で開催された、日本教育社会学会 第61回大会に参加しました。
日本教育社会学会は、教育社会学の発展普及を期し1950年(昭和25)年に設立された学術団体で、会員数は1,300名あまりです。年に一度の大会は、「理論」「子ども」「青少年」「学校」「教師」「家族と教育」「地域社会と教育」「メディアと教育」「高等教育」「生涯教育」「進路と教育」「ジェンダーと教育」「異文化と教育」「経済と教育」「社会構造と教育」「外国の教育」「教育の歴史」「教育問題」といった部会に分かれて、一般研究発表が行われます。大会の他にも、「九州教育社会学会」「関西教育社会学研究会」「東海教育社会学研究会」など関連学会が組織され、随時研究会が開催されています。
大会では同時進行しているいくつもの部会全てに参加することはできませんので、今回は「高等教育」に絞って発表を聞いてきました。発表の内容は、いま大学でどのような教育がおこなわれているのか、財政の仕組みはどうなっているのか、学生の学習や生活実態はどのようなものかといったものでした。どの研究発表も、高等教育進学率が50%を超えた今、大学で起きているさまざまな変化を実証的に把握し今後のあるべき姿を模索しているように感じられました。
教育社会学におけるこれまでの高等教育研究は、大学満足度や学習・生活態度などについて質問紙調査によってデータを集め、それら相互の関連や、学力(偏差値)・入試形態・学年などさまざま変数との関連を見ることにより、どんな学生が大学内で何に影響を受けどのように変化しているのかを実証的に明らかにしようとするものでした。今年もそのような研究が継続的に行われる中、最近注目されている「アウトカム」をいかに測定するか、つまり変化だけでなく学生は大学在学中に何を学び何を身につけているのか、大学教育の成果を測定しようとする研究(研究代表 濱名篤教授)も見られました。
濱名教授の研究グループは、これまで採られてきた自己評価という調査方法の妥当性を検証するため、担当教員と同じゼミの学生による他者評価を加えそれらの一致率をみるというものでしたが、そこで議論になったのは調査方法の妥当性でした。質問項目・ワーディングの妥当性や、この手法が実際使われることになったら学生はどう反応するかといった質問の声があがりました。その中で、これまでの大学生調査にテスト理論を組み合わせることで妥当性の検証をしている声もきかれたのですが、いかに測定するかという“手法”の領域では特に、教育社会学というディシプリンだけでは限界があること、これからは学際的な協力関係が必要であることを大会の場で初めてみたような気がしました。いずれにせよ、濱名教授の研究グループ は、アウトカム・アセスメントでは複数タイプのテストを使って学生の能力を多元的に評価すべきであるという考えのもと、新しい測定手法の可能性を精力的に探るものであり、今後の展開が気になります。
また、同じ部会で教育社会学とはどうあるべきかという議論にもなりました。政策科学的性格を持つ教育社会学はそこにある事象についてさまざまな角度からの分析・検討を積み重ねてきましたが、何かを創り出すことは新しい試みであり多くの議論を呼ぶような困難なものなのかもしれません。自ら創り出すものについて自ら社会学的考察を加えつつ進まなければならないのです。
これからはテスト理論など他領域と協力することでも、教育社会学にさらなる発展が期待されるのではないかと思います。次大会は関西大学で開催予定とのことで、それぞれの研究がどのような展開を見せるかが非常に楽しみです。