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CRETから、最新の教育・テストに関する学会レポートをお届けします。

日本数学教育学会第91回総会参加レポート

  2009年8月4日・5日の両日、日本数学教育学会 主催「生きる力をはぐくむ算数・数学教育」というテーマの第91回総会 に参加しました。プログラムはシンポジウムと分科会で構成され、数学、数学教育の研究者、学校教諭、大学職員、教材提供企業などが集まりました。分科会は幼稚園・小学校部会、中学校部会、高等学校部会、高専・大学部会の4分科会が4会場に分かれて実施され、発表件数はそれぞれ100余りでした。以下、概要をご報告します。

  シンポジウムでは、「自立の基礎に培う算数・数学教育」というテーマで議論されました。座長および中学校の立場から清水 静海先生(帝京大学)、小学校の立場から青山 泰浩先生(京都市立嵐山小学校)と細水 保宏先生(筑波大学付属小学校)、高校の立場から逸見 由紀子先生(東京都立西高等学校)、大学の立場から中原 忠男先生(環太平洋大学)、理数に関わる仕事に携わる社会人の立場から甘利 俊一先生(理化学研究所)の5人のシンポジストより、算数・数学の新学習指導要領で期待される教育について、示唆に富む提言がありました。
  数学的活動と言語活動(表現する力)の指導事例や教師の心得に関して、小中高別の具体的かつ実践的なお話は次のとおりでした。

  • 小学校の例…小6の線対称の導入で「中田、田中、山本」と「細水、夏坂、盛山」の2つのグループの違いに着目して漢字名の分類を行う。教師は、「山田はどっちに入る?」と質問を投げかけ、子どもが帰納的に分類の観点に気づくように留意する。「裏から見ればわかる」「一本筋が通っている」など、考える過程での子どもの表現を互いにメモさせる活動を行う。分類活動するだけでなく理由を表現することが大切。



  • 中学校の例…表現する力は納得と説得のための技法である。図形の証明の目的は、証明することではなく、「証明したことから新たなことを読み取ること」。二次方程式の解の公式の指導目的は、解くことではなく、「二次方程式を使って考えること」。中1と中3の資料の活用の目的は、「情報にだまされない力をつけること」である。



  • 高等学校の例…数学的活動を行うにあたり、生徒が自然に議論に参加できるように黒板の使い方や机の配置に工夫することも大切である。活動事例としては、数Bの数列において、1から10の自然数の和を求める方法(2S法)の考え方の応用として、3S法や4S法を考え、「自分で考えたことを表現する楽しさ」を実感してもらう。友達と関わる場づくりと同時に、一人で熟考する場づくりも必要かもしれない。


細水先生から、表現活動をするときの留意点として、下記2点が提言されました。
    1)表現したくなる場をつくること
    2)表現する相手を意識させること

  逸見先生によれば、高校生は自分の考えより正しい答えを書きたいという傾向があるそうです。数学教育において、「なぜ、その答えが正しいのか?」を考え、伝える相手に合わせて自分の考えを表現する力をつけることの重要性を感じました。そのとき、表現方法は日本語だけではない事例として、清水先生が最後に紹介された、「√8+√2=√10でない」ことを証明するある高校生の表現(右図)が印象的でした。

  分科会では、高校分科会の8つの発表を拝聴しました。生徒が自発的に考え、考えたことを表現したくなるような授業実践事例として、とても参考になる発表を2つ紹介します。ご発表の様子から、先生ご自身が数学を心から楽しみ、その様子が生徒に自然に伝搬して、結果的に生徒もその課題を深く考えてみたくなるのではないかと感じました。

  • 「数学の面白さが分かる発展的教材の研究―n角形を表す等式・領域を表す等式―」(吉田昌裕先生、筑波大学附属駒場中高等学校)*1 …xy平面上に正n角形を1つの方程式で表せるかどうか、という課題。軸を対角線とする四角形を描く方程式|x|+|y|=1を発端として、辺が軸に平行になるような正方形にするにはどうすればいいか、正三角形を表す方法はあるのだろうか、と発展的に考察していく。先生も解がわからない状態で取り組み、方程式を編みだし、最終的にグラフに描画して確認した。



  • 「SSH数学部と数学選手権大会―決勝ステージを振り返って―」(伊藤直樹先生、愛知県時習館高校)*2 …空間上で、2つの円が互いに垂直に配置されているとき、一方の円がある条件を満たしながら移動するときの軌跡の立体の形と体積を求めるという課題。数学部の生徒がコンクール応募用に作った。コンクール会場の審査員も、その軌跡の立体について「半球だ、いやそうじゃない」と喧々諤々になった。


  そのほか、韓国やアフリカなど外国の数学教育の研究、国際バカロレアの理念を反映した数学教材の紹介など、豊かな数学的活動を創造するための海外の教育研究もとても参考になりました。高度なテクノロジーと豊富な情報があふれる21世紀において、数学教材の無限の可能性を感じました。

*1 日本数学教育学会誌2009第91巻臨時増刊 第91回総会特集号(京都大会)pp.493
*2 日本数学教育学会誌2009第91巻臨時増刊 第91回総会特集号(京都大会)pp.481

(CRET研究員 星 千枝)

星 千枝 -Chie Hoshi-

CRET研究員

趣味: ランニング、テニス、温泉、グルメ

研究テーマ: 教育とテクノロジーを組み合わせて(EdTech)、新しい学びを創出すること。「教科×プログラミング」の指導内容と評価手法を開発し、現場での実践に取り組んでいます。

学会レポート

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CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。







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