CRETから、最新の教育・テストに関する海外の動向をお届けします。
ASCD学会参加報告
ASCDとは、the Association for Supervision and Curriculum Developmentの略で、おもに小中高等学校の教員を対象にした大規模な研修会と展示会が催されました。北米のフィラデルフィアのコンベンションセンターで行われ、新井、赤堀が参加しました。以下、参加した発表内容の概要を示します。
1) 子どもの宿題について
アメリカでも親は子どもの宿題についてストレスを感じており、子どもとやりとりする場面が多いようです。また、この調査によれば、子どもが宿題をする意欲と親の教育歴や教育レベルには関係が見られません。さらに、子どもに宿題をさせるには、創造的な宿題が良いこと、何か活動を伴うこと、責任を持たせること、自信を持たせることなどの方略が重要です。
2)21世紀学習スキルについて
21世紀学習スキルについては、多くの発表がありました。その内容はコミュニケーション能力、協同して学習するスキル、創造性、批判的思考力などの幅広い能力や人間力が中心でしたが、キャリア教育としての上級学校に進学する学力も含まれています。 具体的には、コミュニケーション能力や協同して学習するスキルを育成する活動として、他の子どもの作品を見てコメントを与える活動、相手に自分の作品を説明する活動、また記録をして自分を振り返る活動などが含まれています。
3)州共通のカリキュラムについて
Common Core State Standard(CCSS)の発表が大変多く、注目を集めていました。北米は、州の独立性が強く、カリキュラムなども州ごとに作成していますが、近年になって州に共通するカリキュラムやガイドラインを作成する動きが出てきました。日本における学習指導要領に類似していますが、National Curriculumではなく州が共同して開発したカリキュラムと言えます。50州が共同して開発しています。
たとえば、詩の教材においては、中心となる考えやテーマの理解など、多様な観点から分析する視点が与えられ、授業をデザインするガイドラインが提示されています。数学においても、「図で示す」、「比較する」、「別の言葉で言い換える」など、分析の視点が標準化されています。評価においても、目標に対する達成度などを明確に記録することが求められます。多くの学校でCCSSに基づいて授業を行い、実践しています。これまで、北米の教育が州に任されており、自由な教育内容であったことに対して、共通したガイドラインや教育内容の基準を設定することによって学力を保証するという考えではないかと思われます。21世紀学習スキルが人間力や幅広い能力の育成を目指していることに対し、CCSSは教科の学力の向上を目指していると言えるでしょう。
4)ICTの活用について
クラウド技術を用いた教材の入手が盛んです。たとえば、子どもの動機づけを促す教材や教科に応じた問題集などが、簡単に入手できるようになりました。また、教師の質問の仕方の事例集や、遅くしたり早くしたりできる教室に提示するタイマーのソフトなど、興味深い教材も多く見られました。このような優れた教材は教員にとって人気が高いようです。
(CRET理事長 新井 健一、CRET理事 赤堀 侃司)
(文責: 赤堀 侃司)
赤堀 侃司 -Kanji Akahori-
ICT CONNECT 21(みらいの学び共創会議)会長/東京工業大学名誉教授
静岡県高等学校教員、東京学芸大学講師・助教授、東京工業大学助教授・教授、白鴎大学教育学部長・教授を経て、現在に至る。この間、放送大学、国連大学高等研究所などの客員教授の兼務。
◆著書:『教育工学への招待』(ジャストシステム 2002年)、『授業の基礎としてのインストラクショナルデザイン』(日本視聴覚教育協会 2004年)、『授業デザインの方法と実際』(高陵社書店 2009年)、『コミュニケーション力が育つ情報モラルの授業』(ジャストシステム、2010年)、『タブレットは、紙に勝てるのか』(ジャムハウス 2014年)など。