CRETから、最新の教育・テストに関する海外の動向をお届けします。
香港における教育の情報化とCSCL学会参加レポート
2011年7月4日から6日にかけて香港大学CITE (Center for Information Technology in Education)を訪れ、CSCL学会 (Computer Supported Collaborative Learning)に参加し、香港の「教育の情報化」政策の動向とコンピュータを用いた協調的な学習の動向について調査してきました。
21世紀に入って、各国で学習観・能力観の転換が起こってきています。例えば、教師が生徒に教える指導スタイルから生徒が主体的・協調的に学び合う学習観の普及、そして教科の知識だけでなく批判的思考力や問題解決力など“高次の思考力”の重視です。一方、社会にICTが急速に普及する中、先進諸国は教育にICTを普及させるための施策を進めています。その施策は、上記のような学習観・能力観の転換を実現していくためにも必要不可欠な側面があると思います。
今回、2011年7月4日から6日にかけて香港大学CITE(Center for Information Technology in Education)を訪れ、CSCL学会(Computer Supported Collaborative Learning)に参加し、香港の「教育の情報化」政策の動向とコンピュータを用いた協調的な学習の動向について調査してきました。
香港の教育の情報化政策は、2008年から第三期に入っています。この政策では、Web2.0をドライビングフォースとして、c-learning(Collaborative, Contributory, Creative learning)の幕開けを宣言しています。また2009年には、教材とe-Learningに関するワーキンググループの報告も提出されており、“学習者中心の学び”へのパラダイムシフト行っていくというビジョンが公表されています。まさに、学習観の転換とICT化が両輪で推進されていると言えます。これらの政策や報告にもとづき、香港では2014年までに、小中学校20~30校でディジタル教材を用いた実践が行われることになっているそうです。ディジタル教材や教科書を用いた教育実践は、韓国やシンガポールでは一足先に、日本は香港と同じようなスケジュールで進められており、アジア各国では2015年ごろを境に学校での学びが大きく変貌していく可能性がありそうです。
今回訪問したCITEは、上述のような香港特別行政区全体として進めている実践にも関わっていますが、より先進的な学校実践も主導しており、CSCL学会でもプロジェクトの発表がありました。
CITEのプロジェクトを2つ挙げます。一つは、SC(IL) Toolsと呼ばれるプロジェクトで、ICTを活用した理科の授業で使う“情報リテラシーを自己評価するツール”の開発を行っていました。情報リテラシーを情報の授業でというのではなく、主要教科の中で情報リテラシーも同時に育むというわけです。情報リテラシーが必要と言われる昨今、どのようにカリキュラムや評価を設計し直していくのか、示唆的な事例だと思いました。
もう一つは、KBIP(Knowledge Building International Project)と呼ばれるプロジェクトで、香港、北京、カナダ、スペインなどの小中学生が、ナレッジフォーラムと呼ばれる学習支援のためのソフトフェアを用いたり、ビデオカンファレンスを行ったりしながら、生徒が主体となって協調的に知識構築をするというものです。ICTを用いて国際的な学び合いが実現している例でした。CSCL学会では、KBIPに参加した香港、北京の生徒が自分たちの学習成果を英語で発表するシーンも見られました。
今回訪れた香港の事例は、基盤的な実践と先進的な実践が両輪となって進んでいる姿が印象的でした。日本においても、生徒が主体的・協調的に学び合い、高次の思考力を育む教育を実現していくために、カリキュラム、教材、アセスメント、ICT環境、教員養成をどのように変えていくのかを議論し続けていく必要があると改めて実感しました。