CRETの海外ウォッチ Foreign

CRETから、最新の教育・テストに関する海外の動向をお届けします。

CRET研究交流レポート -ATC21S DWP輪読会参加-

 

 2010年3月23~24日、ATC21S (Assessment and Teaching of 21ST Century Skills)のDWP(Draft White Paper)5冊の輪読会に参加しました。

 この輪読会は、三宅なほみ氏(東京大学)の呼びかけによるもので、現時点でのATC21SをDWPに基づき正確に理解し、この動きを日本の学習科学研究者、ITによる教育推進関係者間で共有し、今私たちがすべきことを討論することを目的に行われました。

 ATC21Sとは、CRETレポート(2009年5月26日付)にもあるとおり、アメリカのIT系企業3社とメルボルン大学が中心となって推進される3年間のプロジェクトです。2009年4月の第一回会議から始まった1年目の取り組みとして、2010年1月11日のLearning and Technology World Forum (ロンドン)にて、5つの分科会それぞれが執筆した5冊のDWPが発表されました。それぞれタイトルは次のとおりです。

 1. Defining 21st century skills 
 2. Perspectives on methodological issues 
 3. Technological issues for computer-based assessment
 4. New assessments and environments for knowledge building
 5. Policy frameworks for new assessments

 DWP1には21世紀に求められるスキルの定義、DWP2にはその21世紀スキルを測定するための留意点、DWP3にはアセスメントのための技術、DWP4には知識構築型学習推進のための新しい評価方法と学習環境、DWP5にはそれらのアセスメントを導入するための政策の要件が書かれています。

 輪読会には学習科学に関する大学、教育機関、企業から20名が参加し、ジグソーという協調学習メソッドのおかげで、1人当たり十数ページの事前準備で会議に臨み、たった1日半の会議で、参加者全員が、5冊の英文DWPに書かれた内容を日本語で把握することができました。協調学習の威力を見た思いです。

 ATC21Sがめざすこととして、「学習者が自ら知識を構築する学習場面に埋め込まれ、学習が起きるのと同時に行われ、かつ学習過程そのものを次の段階に導く評価(Transformative assessment, emergent, concurrent, embedded and transformative assessment for knowledge building)」が記載されています。
 つまり、学習の結果としての到達点を測るものではなく、学習の進み具合を捉え、知識構築を次の段階に進めるためには今やっていることをどう変えたらよいかを判断するための評価です。従来の総括的評価のように到達ゴールから逆算して学習するのではなく、学習しながら到達ゴールが次々と再設定されていくというものです。
 このような評価を常時、学習の進行に合わせて行うためには、強力なIT基盤が必要になってきます。事例として、Stealth評価のように、本人が知らないうちに能力を測定する方法などが紹介されました。

 2010年1月のLearning and Technology World Forumに参加された清水康敬氏(東京工業大学名誉教授)の寄稿記事には、「OECDが実施するPISA2012調査において、ATC21Sのスキル評価を実施する計画であるとの説明があり、コンピュータを使った問題解決能力の測定が始まることは確かのようだ。私たちはこの点に注目しておく必要がある。」とのコメントがありました。
 また、同フォーラムでのBarry McGaw氏(メルボルン大学)の基調講演では、ATC21Sの2年目の取り組みとして、小中学生対象の、問題解決力(集団、個人)とデジタルリテラシーのアイテム開発が予定されていることが発表されました。

 インターネットの普及で、ますます国境がなくなる現代社会において、日本の子どもたちがグローバルな舞台で活躍する人材に育ってほしいという願いがある一方、現状の日本の教育政策で十分なのか、という不安も感じます。
 CRETとしては、引き続き世界の教育動向を注目しながら、日本の教育の向上に資する活動をしていきたいと思います。

 DWPサマリーの詳細については、添付資料をご参照ください。
  ※サマリー文書は、一日半の会議で、複数の担当者が共同執筆したため、
    粗い仕上がりになっております点、ご了承願います。

 

(CRET研究員 星 千枝)

 

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