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日本社会心理学会第54回大会 発表報告
「サポート校の集団宿泊研修による人間関係構築能力の向上に関する検討」
(発表者:杉森 伸吉・土井 聡子・古屋 真・相川 充・曹 蓮)
1. 大概
日本社会心理学会第54回大会において、集団宿泊研修による人間関係構築能力の向上に関するポスター発表を行いました。
・開催期間:2013年11月2日~3日
・開催場所:沖縄国際大学
2. 発表内容
【問題と目的】
近年、チームワーク能力や共感性といった人間関係構築能力を育成する集団宿泊的体験活動の重要性が改めて指摘されています。特に、人との関わりや新しい環境への適応に困難さを感じてサポート校(適応指導教室やフリースクールなど)に通う子どもたちにとって、このような集団宿泊的体験活動は、単に、対人不安感や集団不適応を軽減に止まらず、集団で活動する際に必要なチームワーク能力の向上を促すことも期待されています。
本研究では、サポート校の集団宿泊的体験活動に焦点をあて、コミュニケーションやリーダーシップ力の向上、異質な他者への共感性の成長について検討を行いました。
《サポート校について》
本研究で対象としたサポート校は、例年9月上旬に「屋久島スクーリング」という集団宿泊体験活動を実施しています。
特徴:この活動は、卒業要件としても位置づけられており、「他者との関わり」、「自然体験」、「自己内省」などを狙いとし、チームビルディングやアウトドアといった集団で活動する機会が豊富に設けられています。
【方法】
集団宿泊体験活動に参加したサポート校の生徒57名を対象に、2012年9月11日~15日に調査を行いました。具体的には、チームワーク能力に類する概念として、以下の尺度を用いました。
(1)異質な他者への共感性測定尺度 (全13項目、5件法「そう思わない」「ややそう思う」「そう思う」「かなりそう思う」「まったくそう思う」)
(2)ソーシャルサポート尺度 (「受ける」「与える」各5項目、4件法)
(3)学校行事評価システム (「そう思わない」「あまりそう思わない」「どちらでもない」「ややそう思う」「そう思う」5件法)
下位尺度
・「豊かな人間性(コミュニケーション)」因子(6項目)
・「技能・表現(リーダーシップ)」因子(6項目)
【結果と考察】
まず、「豊かな人間性(コミュニケーション)」「技能・表現(リーダーシップ)」「異質な他者への共感性」に関して、各平均値から、屋久島スクーリングを通して参加生徒の多くが成長感を得ていた可能性が示唆されました。(Table.1参照)。
次に、ソーシャルサポートを「受ける」と「与える」得点を高群・中群・低群に分けて検討した結果、ソーシャルサポートを受ける側の「コミュニケーション」において、高群と低群の得点間に有意な差が見られました。ソーシャルサポートを与える側の「リーダーシップ」「コミュニケーション」においても、高群と低群の得点間に有意な差が見られました。これらの結果から、相互のソーシャルサポート関係の強さは集団において活動する能力の向上と関連していることが考えられます。
また、サポート校の教員の生徒に対する客観評価を基に、生徒の対人関係のタイプを「苦手(引っ込み思案)」「苦手(攻撃的)」「ふつう」「得意」の4つに分類し、それぞれのタイプ間でソーシャルサポート得点に差が見られるかを検討しました。その結果、「苦手(攻撃的)」よりも「得意」の生徒の方がソーシャルサポート「受ける」の得点が高く、「苦手(引っ込み思案)」な生徒に関しては有意差が見られませんでした。引っ込み思案な生徒は他者と関わることは苦手だが、他者からの助けを認識することができており、コミュニケーションやリーダーシップ、自然体験などの向上感を得られる可能性が考えられます。
以上の結果から、屋久島スクーリングにおける経験はチームワーク能力や異質な他者への共感性の成長感に効果があり、引っ込み思案で対人関係が苦手な生徒にも好影響を与える可能性が示唆されました。
3. 質疑応答
1)「対人関係の分類はどのように行ったのか?」
→サポート校の教員の生徒に関する記述から大学教授一名と、大学院生1名で分類しました。他人と距離を置きがちな、引っ込み思案な記述が見られた生徒は「引っ込み思案」、人と関わることがはできるが、距離の取り方が分からずトラブルを起こしてしまうことがある生徒を「攻撃的」としました。反対に、明るくて友達の輪の中に常にいるような生徒を「(対人関係が)得意」、そして対人関係に関する目立った記述が見られない生徒達を「(対人関係が)ふつう」として分類しました。
2)「この集団宿泊研修は何泊で行われたのか?」
→4泊5日です。
3)「宿泊研修の途中でドロップアウトする生徒はいないのか」
→先生方が、生徒に無理強いをしないように気を付けていたり、生徒に不安感を持たせないような関わりを心がけたりしていることもあり、ドロップアウトする子はあまりいないようです。
4)「この宿泊研修に行きたがらない子はどうするのか」
→この宿泊研修は卒業要件として位置づけられているので、原則参加することが必要です。
ただ、万が一この研修に参加しない生徒がいた場合、そのような生徒に対して日常の学校現場でこの宿泊研修にとって代わるような心理社会的教育を行う方法も探っていく意義は大いにあると思います。
(CRET連携研究員 曹 蓮)