CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

日本グループ・ダイナミックス学会第68回大会 発表報告
「オンライン面接において受験者・面接官が重視する点の違い」

 2022年9月17日から18日にかけて,日本グループ・ダイナミックス学会第68回大会がオンラインにて開催されました。2020年から始まったコロナ禍は多少の落ち着きを見せてきたように思いますが,今もなおオンラインでの学会大会が多く行われています。この大会は昨年度に引き続き,本年度もオンラインで開催されました。

 

 私は,昨年度から澤海研究員,澄川研究員とともに「オンライン面接におけるスキル改善」に関する研究を実施しています。今回の発表内容は,この研究成果の一部です。

 

 コロナ禍に入って以降,就職活動のあり方も様変わりしており,採用面接がオンラインにて実施されることも増えています。就職白書(就職みらい研究所, 2021)には,2021年卒採用実施企業を対象に行った調査の結果がまとめられており,それによれば,この調査に回答した1,398社のうち,74.7%の企業がWebにおける自社説明会・セミナーを,69.8%がWebにおける面接を実施していたと報告されています。コロナ禍の影響は2022年度においても残っていますので,オンライン面接は今後も継続されると予想されます。

 

 オンライン面接は従来型の面接と違い,受験者が自ら受験の環境を整える必要があります。たとえば,事前に部屋をきれいにしておく,通信環境を整えておく,本番ではカメラを見て話す,いつもより間を空けて話す,などのポイントを伝えるhow-to本もあります。ただし,これらはあくまで著者の経験則に基づくものが多く,実証研究に基づくデータの蓄積は少ないように思われます。

 

 これに関連して,私たちが2022年度の教育テスト研究センター年報で公表した調査(稲垣・澤海・澄川, 2022)では,オンライン面接の受験経験者・面接官経験者を対象に,オンライン面接の受験者の「事前の準備」および「当日の振る舞い方」について,採否に影響すると思われる点を自由記述を用いて収集しました。その結果,事前の準備では「身だしなみ・髪型を整える」「志望動機や自分のアピールポイントを確認しておく」など6つのポイントが抽出されました。また,当日の振る舞い方では「話し方に注意する(笑顔・明るい表情・ハキハキと話すなど)」「質問に的確な回答をする」など,8つのポイントが抽出されました。

 

 この結果をうけて今回の研究では,上記の調査で抽出されたポイントをオンライン面接の受験経験者・面接官経験者に見てもらい,採否に影響すると思われるものを選択してもらう形式の調査を行いました。上述の研究との違いは,採否に影響するものがたくさんあるとしても,その中から優先順位をつけて3つを選ばなければならなかった点です。その結果,「当日の振る舞い」で重視する点のみ,受験経験者と面接官経験者の回答にズレがあることがわかりました。具体的には,受験経験者は面接官経験者より「話し方に注意する」ことを重視する傾向があり,「相手の話に相槌を打つ」ことを重視していました。その一方で,面接官経験者は受験経験者より「質問に的確な回答をする」ことを重視する傾向があり,「集中して話を聞く」ことを重視していました。このように,受験経験者と面接官経験者が重視する点は完全に一致しているわけではなく,ズレもみられるようです。こうした結果をもとに,今後はオンライン面接の受験者をトレーニングし(つまり,面接官が重視する点と受験者が重視する点のズレを教示するなどして),実際に面接における評価が向上するかなどについて,検討を進めていく計画です。

 

 さて,冒頭でも述べましたが,本大会は昨年度に引き続き,オンラインでの実施となりました。シンポジウムの一部はYouTubeの限定配信でも提供されるなどの配慮がなされており,参加者としてもありがたく思いました。そして偶然にも,この会期中,ちょうど(対面実施だった場合の)会場だった立命館大学のある近畿地方に台風14号が差し掛かっていました。結果論ではありますが,オンラインで実施されたことにより,参加者が会場に行けない・帰れないなどの困難を経験せずに済んだと思いました。

 

 ただし,残念ながら各発表へのコメントはほとんど付いておらず,私たちの発表もコメントはいただけませんでした。それでも今後,発表論文集の電子情報は公開されますので,CRETとしての研究活動の成果を公開できたことはよかったと感じています。

 

 来年こそは対面で開催できる情勢になることを願いつつ,また澤海研究員,澄川研究員と研究を進めていきたいと思います。

 

書誌情報:

稲垣 勉・澤海 崇文・澄川 采加 (2022). オンライン面接において受験者・面接官が重視する点の違い  日本グループ・ダイナミックス学会第68回大会発表論文集, 79−80.

 

(CRET連携研究員 稲垣 勉)


稲垣(藤井) 勉 -Tsutomu Inagaki (Fujii)-

CRET連携研究員 京都外国語大学 共通教育機構 准教授

趣味:ギター
高校時代からバンドを組んでいて、大学時代は軽音楽のサークルに多くの時間を割きました。バンドは一人だけ上手でもダメで、皆がうまく合わせることで格好がつきます。コミュニケーションにおいて「他の人とうまく合わせる」ことの大事さは、この経験から学んだのだと思います。

研究テーマ:よりよい対人コミュニケーションのとり方や、自己報告ではとらえにくい心の部分の測り方に関心があります。
http://pyfpy037.wix.com/tsut0muf

研究発表論文

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2022-09-08

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2022-08-02

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