CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

日本社会心理学会第63回大会 発表報告
「日本人大学生が苦手とする対人場面の検討―計量テキスト分析を通じて―」

京都橘大学にて,2022年9月14日から15日にかけて開催された日本社会心理学会第63回大会に参加して研究発表を行ってまいりました。2020年度から新型コロナウイルスが本格的に蔓延してきて,そこから顔と顔を合わせての学会参加はありませんでした。数年ぶりに旧友たちと対面することができて,オンライン学会では経験できないような熱気を味わうことができました。オンラインでの開催は遠くにいても参加できたり,オンデマンド形式の発表では何度も見返したりできるというメリットがありますが,研究内容が記憶に残りにくいもので,対面で研究発表を直接聞いたほうが,その場で自分が抱いている感情やその時の文脈,発表者の声や表情などの情報も同時に処理されるので,発表内容も記憶に残りやすく,今後も対面での開催が増えていけばよいと感じました。

 

さて,私はCRET連携研究員として実施した研究(日本人大学生が苦手とする対人場面の検討―計量テキスト分析を通じて―)を15日に発表しました。当該学会では珍しい質的研究の発表になるため,ポスター発表には多くの聴衆は来ないかもしれないと危惧しておりましたが,その予想に反して非常に多くの参加者が聞きに来てくださいました。聴衆が途切れることなく,多くの方々に興味を持ってもらえるテーマだという実感を持つことができました。

 

発表内容を以下簡単に述べます。現在,日本人の大学生を対象に,ソーシャルスキル(対人スキル,コミュニケーションスキル)を伸ばすような教育コンテンツをVR動画で作成するプロジェクトを進めておりますが,まずは現代の大学生がどのような場面で困りやすいのかを明らかにする必要があります。先行研究において同様の枠組みで検討されていますが,約20年前の研究であったり,参加者の出身地が偏っていたりして,現代の一般的な傾向はわかっておりません。また,新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い,現代人のコミュニケーションの様相が大きく変容したという論考も散見されます。そこで,今を生きる大学生を対象に,コミュニケーションに難しさを感じる場面を改めて明らかにする必要があると考え,全国の日本人大学生を対象にオンライン調査を実施しました。

 

参加者に自由記述をしてもらったデータを分析した結果,大学生は非常に幅広い文脈でコミュニケーションの難しさを感じているということが分かりました。特に,大学の授業にてグループワークをする場面,部活やサークルで先輩に飲みに誘われたけれど断らなければいけない場面,アルバイト先で勤務時間の変更を申し出る場面,家族同士でけんかが生じている場面,インターネットで知り合った人とやり取りする場面といったものが頻繁に記述されていました。特に,最後の場面はインターネットを介して知り合い,十分に自己開示をしないままに会合するという現代人のコミュニケーションにおける特有の場面を表しているといえ,今後,スキルトレーニングの教材を作成する際には積極的に取り入れたい場面だと感じました。

 

ポスター発表を聞きにいらっしゃった方々から貴重なコメントを得ることができましたので,以下に紹介します。総じてポジティブなコメントが多く,特にVRでのコンテンツ作成に期待を寄せてくださる声が多かったです。従来のスキルトレーニングではロールプレイなどの方法が取られていましたが,どう工夫しても強制されている感覚が残ってしまい,リアリティが弱いという批判があります。VRであれば,没入感やリアリティを担保することができるため,トレーニングの教育効果も高いと考えられます。また,今回抽出された場面は全体的に,自分の気持ちを主張する,発信する,自分の気持ちを表明するといったアウトプットをする場面が多く,情報を取り入れるというようなインプット場面を大学生は苦手と感じていないのではないだろうかという重要なご指摘もいただき,我々が想像していなかった新しい視点に気づくことができました。研究内容を定期的に公に向けて発信することで,我々の研究グループでは得られなかった視野からの有益なコメントが得られるのは貴重です。

 

数年ぶりに参加した対面での学会は同窓会のような雰囲気も感じることができ,チャンスがあればまた対面で学会に参加して,研究発表を行うだけでなく,最新の心理学研究の動向に関する知識を引き続き追っていくべきだと思いました。

 

日本人大学生が苦手とする対人場面の検討―計量テキスト分析を通じて―

(澤海崇文・稲垣勉・澄川采加)

 

(CRET連携研究員 澤海 崇文)


澤海 崇文 -Takafumi Sawaumi-

CRET連携研究員、流通経済大学 社会学部 准教授


趣味: テニス、筋力トレーニング、旅行、おいしいものを食べること
研究テーマ:コミュニケーションスキルやパーソナリティの間接的な測定法
個人ウェブサイト:http://chawa0406.com/

研究発表論文

2018-07-19

教育テスト研究センター年報 第3号 2018年7月

赤堀 侃司

加藤 由樹

加藤 尚吾

竹内 俊彦

稲垣(藤井) 勉

澤海 崇文

北澤 武

若山 昇

宇宿 公紀

安西 弥生

外山 美樹

小林 輝美

湯 立

三和 秀平

小田 理代

Reasearch label
2018-03-02

19thAnnual Meeting of the Society for Personality and Social Psychology 発表報告

外山 美樹

湯 立

長峯 聖人

三和 秀平

CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







>> 研究室の
詳細はこちら

コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。







>> 研究室の
詳細はこちら

コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。







>> 研究室の
詳細はこちら