CRETの研究発表論文 Dissertation

CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。

日本心理学会第86回大会 発表報告

2022年9月8日(木)から9月11日(日)にかけて,日本大学文理学部で対面およびオンラインのハイブリッドで開催されました日本心理学会第86回大会に対面で参加し,ポスター発表を行いました。今回の大会は,対面とオンライン併用のハイブリッド形式で行われ,3年ぶりの対面開催となりました。大会の参加登録者数はおよそ2,400名であり,会期中,ほぼ毎日800名近く(最終日は400名弱)の方が会場に訪れたとのことでした。久しぶりの東京だったので,人の多さに圧倒されつつ 東京都世田谷区にある日本大学文理学部に向かいました。学会会場では多くの方にとって久しぶりの対面での発表ということもあり,熱気に溢れた議論が繰り広げられていました。本学会では外山研究員,長峯研究員,海沼研究員,浅山研究員,湯,三和が発表をしました。

 

外山研究員は「無限理論の個人は適応的か?―自己統制の観点から―」という題目でポスター発表を行いました。意志力の暗黙理論では,自己統制に要する心的資源の利用可能性と枯渇についての素朴な信念が自己統制に影響すると考えられています。自己統制に要する資源は有限であるという考え(有限理論)と無限であるという考え(無限理論)があり,本研究ではこれらの特徴を実験により検討しました。その結果,無限理論の個人は自己統制の発揮後に休憩を取りにくく,結果として低いパフォーマンスにつながることが示されました。

 

長峯研究員は,「スケジューリングスタイルと日常における目標追求」という題目でポスター発表を行いました。スケジューリングスタイルに着目する研究では,スケジューリングスタイルが時間を基準とする時刻重視スタイルと,進捗を基準とする出来事重視スタイルの2つに区別されています。本研究では,日常の目標追求において2つのスケジューリングスタイルがそれぞれどのような効果を持つのかについて検討するために,大学生を対象とした調査を行いました。その結果,出来事重視スタイルは日常的な目標追求と正の関連を示しましたが,時刻重視スタイルは十分な関連はみられませんでした。

 

海沼研究員は,「高校生における友人からの欲求支援行動とエンゲージメントとの関連」という題目でポスター発表を行いました。学習者のエンゲージメントを支えるためには,個人の目標志向性(制御焦点)にあった欲求支援行動の重要性が示されています。本研究では,友人関係における欲求支援行動に着目し,友人からの欲求支援行動,制御焦点とエンゲージメントの関連について,高校生を対象とした調査より検討を行ないました。その結果,防止焦点の傾向が強い高校生は,友人から関係性支援行動を受けると,行動的エンゲージメント(学習への努力)が高まることが示されました。

 

浅山研究員は「大学生の学習目標に関するエピソード的未来思考が学習意図に及ぼす影響―目標達成の重要性に着目して―」という題目でポスター発表を行いました。未来の出来事を先行体験するように自己を投影するエピソード的未来志向は動機づけを高める効果が示唆されています。本研究では大学生の英語学習場面に注目し,エピソード的未来志向が目標達成に関連するのかを検討しました。その結果,特に個人的な重要度が高い目標に関してエピソード的未来志向で考えることが,学習意図を高めることが示されました。

 

湯は,「エピソード的未来思考が遅延価値割引に及ぼす影響―制御焦点を調整変数として―」という題目でポスター発表を行いました。エピソード的未来思考が遅延価値割引を低下させる(すなわち,セルフコントロールを向上させる)ことが多くの研究で示されています。一方で, その効果の大きさは研究によって異なり, 様々な調整要因が存在する可能性があります。本研究では, エピソード的未来思考の効果を調整する要因として,未来についての考え方に関連する制御焦点に注目しました。未来の肯定的な結果の存在を重要視する促進焦点の個人においては,ポジティブなエピソード的未来思考が遅延価値割引を低下させるが,未来のネガティブな結果の不在を重要視する防止焦点の個人においては,ポジティブなエピソード的未来思考の効果はみられないと予想し,実験により検討を行いました。その結果,仮説が支持されました。

 

三和は「有用性について考えることは学習場面の精緻化方略を促すのか」という題目でポスター発表を行いました。勉強を進める上で,学んでいる内容の有用性を理解することは重要です。近年では,その有用性について考えさせる介入により,学習者の興味やパフォーマンスが向上することが示されています。パフォーマンスの向上には学び方の変化も関連すると考え,実験室実験を行いました。その結果,有用性について考えることは学習内容を他の物事と関連づけたりして覚える精緻化方略につながることが示されました。今後は,サンプルを増やすなどして効果を確認しつつ,実際の教育場面への応用を考える必要があります。

 

日本心理学会では,心理学全般の様々な専門の方が訪れます。発表の際には教育心理学や社会心理学,感情心理学を専門とする先生方に来ていただき,貴重なご意見を伺うことができました。さらに,習慣化のサポートにかかわる会社の方や手帳の制作に関わる方,教育現場に関わっている方など大学関係者以外にも様々な方と意見を交流することができ,新たな気付きが多い学会となりました。

 

また,CRETの存在を認知していただき,CRETについて質問を受けることもありました。対面で声をかけていただき,私どもの活動を様々な方に注目していただいていると,改めて感じました。引き続き,世の中に貢献できるような良い研究を続けられるようにしていきたいと思います。


(CRET連携研究員 湯 立,CRET連携研究員 三和 秀平)

 

書誌情報:

外山 美樹・長峯 聖人・湯 立・三和 秀平・浅山 慧 (2022). 無限理論の個人は適応的か?―自己統制の観点から― 日本心理学会第86回大会発表論文集, 1AM-053-PM.


湯 立 -Li Tang-

CRET連携研究員 / 東京成徳大学 応用心理学部 助教

趣味: 旅行、読書

学習の動機づけや自己調整に興味を持っています。特に興味の発達について研究を行っています。

三和 秀平 -Shuhei Miwa-

CRET連携研究員 / 信州大学 学術研究院 教育学系 准教授

趣味:バスケットボール、ゴルフ、散歩

研究テーマ:動機づけ、特に教師の動機づけに関して研究しています。

研究発表論文

2020-07-14

教育テスト研究センター年報 第5号 2020年7月

相川 充

赤堀 侃司

加藤 由樹

加藤 尚吾

竹内 俊彦

舘 秀典

稲垣(藤井) 勉

澤海 崇文

北澤 武

若山 昇

宇宿 公紀

安西 弥生

外山 美樹

小林 輝美

湯 立

長峯 聖人

三和 秀平

酒井 智弘

海沼 亮

能渡 真澄

澄川 采加

CRETの研究領域

テストの評価や解析についての研究を行う。海外の教育テスト研究機関との協同研究や交換プログラムなども実施。







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コミュニケーション能力、チームワーク能力、ソーシャルスキルなどを測定するテスト方法の研究開発を行う。







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コンピューターベースのテストの基盤研究や、メディアと認知に関わる基礎研究、およびそれらの知見を活かした応用研究および実践研究を行う。







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