2019年3月に福井大学で開催された日本教育工学会研究会に参加し、『自己の映像を利用した英語プレゼンテーション改善-映像撮影者の有無による自己評価の比較-』と題して発表を行いました。
学校、ビジネスなど、さまざまな場面でプレゼンテーションを実施する機会があります。より良いプレゼンテーションをするために、プレゼンテーションの様子をビデオ撮影して視聴するという方法が考えられます。撮影した映像を視聴する際に期待される効果にモデリング(Bandura、1969)があります。モデリングとは社会的学習理論の一部であり、他人の様子を見ることで学習することができるという理論のことです。メディアの発達につれ、映像を通じてもモデリングが可能となりました。他人だけでなく自分自身をモデリングする自己モデリング(Dowrick、1983)も可能です。
これまでの研究では、プレゼンテーションを視聴する方法に注目してきましたが、今回の研究ではプレゼンテーションを撮影する方法に焦点を置きました。プレゼンテーションとは、誰かに何かを伝えようとするものであり、聴衆を意識する行為であると考えます。そこで、プレゼンテーションをする際、前に誰かがいるかいないかでプレゼンテーションが変わるのではないかと仮定し、実験を行いました。
大学生60名をパートナーにプレゼンテーションを撮影してもらう群(実験群:男女各15名)と自分でプレゼンテーションを撮影する群(統制群:男女各15名)に分け、全員に英語でプレゼンテーションを行ってもらい、その様子をスマートフォンで撮影したビデオをペアで視聴してもらいました。ビデオ撮影は練習と本番の2回行い、映像視聴後はプレゼンテーションを19項目について各自自己評価、およびパートナーのプレゼンテーションを評価し、感じたことを自由に記述してもらいました。今回の発表では、自己評価の結果のみを扱いました。
撮影者の有無が自己評価に影響があるかどうかを調べるために、実験群と統制群を比較するt検定を行ったところ、有意差があったのは練習のプレゼンテーションでは、「自信を持って発表できた。」、「ジェスチャーが適切だった。」、「表情が適切だった。」、「伝えたいことが伝わった。」の4項目、本番のプレゼンテーションでは、「ジェスチャーが適切だった。」の1項目でした。撮影者がいることで、聴衆の存在を意識したプレゼンテーションをすることができると考えら、聞いてくれる人がいることで適切な表情で適切なジェスチャーを用い、「伝えたいことが伝わった。」と感じ、「自信をもって発表できた。」のではないかと考えられます。
1回目と2回目で自己評価が異なるかどうかを調べるために、練習と本番のプレゼンテーションの自己評価を比較する対応のあるt検定を行ったところ、実験群、統制群共に、19項目中、18項目で本番のプレゼンテーションの方が自己評価が有意に高くなりました。実験群は「内容が適切だった。」であるのに対し、統制群は「姿勢が良かった。」という項目には有意差が見られませんでした。統制群は自分で撮影しているので、姿勢は終始固定したままだったためだと考えられます。
練習と本番のプレゼンテーションの自己評価の伸び(差)が異なるかどうかを調べるために、実験群と統制群を比較するt検定を行ったところ、有意差があったのは「表情が適切だった。」の1項目で、統制群の方が得点が高かったです。統制群はセルカ棒を持っており、ジェスチャーを使用することができなかったために、改善しやすい表情により注意したのではないかと考えられます。
今回の実験では自分で撮影する場合はセルカ棒を用いており、撮影時にジェスチャーを使用することができなかったため、三脚でカメラを固定して撮影すると結果が異なるかもしれません。外国語としての英語学習における映像利用の研究では、自己モデリングは自信を持つことを助け、他者モデリングは動機付けを助けるとされることから、映像の中の自己を視聴することで自信を持ったとも考えられます。課題にもよりますが、ひとりでやるよりも他者と一緒にやる方がはかどることがある、社会的促進は他者が単に存在するだけでも生起することから、撮影者の存在が被撮影者、および視聴者に対する効果があったと思われます。ただし、撮影時なのか、視聴時なのかが不明確なため、引き続き、調査する必要があります。
本研究ではプレゼンテーションを撮影する方法に焦点を置きました。自分でセルカ棒を使って撮影する時は表情に注意し、パートナーに撮影してもらう時は適切な表情で適切なジェスチャーを用い、伝えたいことが伝わった、自信をもって発表できたと感じることがわかりました。誰かに何かを伝えようとすることを撮影する場合は、自分以外に撮影者がいることが望ましいと考えられます。
最後に、本大会では多くの先生方から研究だけでなく、実践に関してもアドバイスをいただきました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
(CRET連携研究員 小林 輝美)