2018年9月29日(土)に日本教育工学会で発表を行いました。寺尾ら(2014)によれば、大学の講義中に学生がスマートフォンを私的な目的で操作している主な目的は、「SNSなどのコミュニケーション」であることが分かっています。
本研究では、スマートフォンを自由に使用しながら講義を受けることが、学習者の講義への興味、集中度、理解力にどのような影響を与えるのかLINE依存度との関係性について明らかにすることを目的としています。
首都圏の大学生60名を対象にスマートフォンを自由に使用しながら学習するながら群30名と、スマートフォンを使用せずに講義を受ける非ながら群30名に分けて実験を行いました。講義は、筆者が生物の内容についてスライドを用いながら20分間説明する形式を採用しました。依存尺度は、Igarashi (2008)の携帯メール依存尺度のメールをLINEに変更したLINEメール依存尺度を実験で用いました。
アンケートの結果から、ながら群がスマートフォンを使用した人数は30名中24人で、スマートフォン使用者の平均使用時間は20分中6分でした。使用用途は、ながら群のスマートフォン使用者の24名中21名がSNSに使用し、そのうち19名はLINEを使用していました。
ながら群と非ながら群において、実験の前後にテストを行い分析したところ、実験前より実験後の方が得点が高くなりました。しかし、ながら群と非ながら群のテストの得点に差は認められませんでした。
実験の結果からスマートフォンを使用するながら群において、LINEメール依存度の「LINEでしか自分の本心を相手に伝えられない」などの質問項目からなる脱対人コミュニケーションと集中度においてのみ正の相関が認められました。
スマートフォンを自由に使用しながら講義を受けることは、LINE依存度が高い受講者にとっては、講義の内容に関する集中度においてポジティブに感じる影響がある可能性が示唆されました。しかし、講義後のテストの得点は両群間に知識の差は認められませんでした。すなわち、スマートフォンの使用を一律に禁止するのではなく、状況に応じて講義でスマートフォンの使用を取り入れることでより集中して講義を受けることができる学習者がいることが明らかとなりました。
また、学会において「LINE依存度が高い受講者はなぜ集中度が高くなるか」と質問をいただきました。今回の受講者の自由記述から、「息抜き」、「眠気を覚ます」などのメリットがあるが、一方でスマートフォンを使用することで「スマートフォンが気になり講義に集中できない」などのデメリットが挙げられました。他にも多くの質問や意見をいただきました。今後の課題としては、他の授業形式での実践や高校生を対象とした調査などに取り組んでいきます。
(CRET連携研究員 宇宿 公紀)