CRETから、最新の教育・テストに関する研究発表論文をお届けします。
日本社会心理学会第57回大会 発表報告
~新たな潜在的自尊心の測定方法の検討—名前への選好を指標として—~
2016年9月17日から18日にかけて関西学院大学にて開催された日本社会心理学会第57回大会に、相川理事・澤海研究員と参加し、研究発表を行いました。
会期中はあいにくの雨模様でしたが、会場となった関西学院大学は古くからの伝統を感じられる素敵なキャンパスで、雨の気怠さを忘れさせてくれるほどでした。この地域は坂が多い上に道が狭いのですが、その中を駆け上がるバスの運転手さんのdriving techniqueには脱帽でした。
私はCRET相川研として実施した、新たな潜在的自尊心の測定方法の研究について、17日に発表を行いました。自分でも意識できていない自尊心とされる「潜在的自尊心」は、心理学において30年以上前から研究対象として注目されてきたテーマですが、その測定の手間が課題の一つになっていました。近年、多く用いられている方法は、ネームレター課題(Name Letter Task:NLT)や、私たちも繰り返し使用している潜在連合テスト(Implicit Association Test:IAT)がありますが、これらを使用する場合、前者は20以上の質問項目が必要だったり、後者は実施用にコンピュータを用意する必要が出てきたりします。心理学において多用される質問紙調査の中に入れ込むには、どちらもコストがかかるものでした。
ですが、2008年に新たな測定方法が提案されました。きわめてシンプルなのですが「あなたは、自分の名前がどれくらい好きですか?」と問う測定法です。この尺度は興味深いことに、NLTやIATと正の相関を示すほか、質問紙で測定する意識可能な自尊心(顕在的自尊心と言います)とも正の相関を示すことが報告されています。従来の潜在的自尊心を測定する方法は、その測度間に相関がないことや、顕在的自尊心を測定する尺度と相関がないことが課題になっていたのですが、この測定法はそれらの課題を克服する可能性があります。
ただし、海外の知見がそのまま日本でも再現されるか否かは自明ではありません。文化が違えば結果も違うかもしれません。そこで私たちは、本邦でも先行研究と同様の結果が確認されるか否かを調査しました。Web調査会社に登録している1500名近くのモニターを対象として、上記の名前の好みを問う尺度や、顕在的自尊心尺度、その他の関連が予想される諸変数を測定する尺度に回答をいただきました。分析の結果、名前の好みを問う尺度は、顕在的自尊心尺度や主観的な幸福感とは正の相関を示したほか、抑うつ尺度とは負の相関を示すなど、先行研究と一致するパターンの相関関係が見出されました。このことは、本邦においてもこの尺度が使用できることを示唆するものであり、NLTやIATが使えない調査環境下において潜在的自尊心を測定したい場合に、この尺度が有用である可能性を示すものです。
では、この尺度はIATやNLTに取って代わるものでしょうか?残念ながら、私たちはそのようには考えていません。なぜなら、先行研究でも示されているとおり、この名前の好みを問う尺度とNLTやIATの相関は決して高くはないのです。このことは、両者に「互換性がある」とは言えないことを示唆しています。これは推測でしかありませんが、名前の好みを問う尺度やNLT、IATがそれぞれ測定しているのは、潜在的自尊心の異なる側面なのではないか、と考えています。
私たちは先行研究で行われた調査・実験の全てを追試できたわけではありませんので、今回の調査で確認できなかった部分は、この後で検証していこうと考えています。発表には多くの研究者の方にお越しいただきましたが、どなたも興味と期待をもってコメントをくださったと感じています。
私が2009年に日本社会心理学会に入会して7年が過ぎました。「潜在的自尊心」は、従前から社会心理学の中でも注目を集め続けているテーマだと思っています。私たちはこれからも「潜在」をキーワードとした研究を重ね、本邦における社会心理学の発展に寄与したいと考えています。
~新たな潜在的自尊心の測定方法の検討——名前への選好を指標として——~
(藤井 勉・澤海 崇文・相川 充)
(CRET連携研究員 藤井 勉)
2022-08-02
加藤 由樹
加藤 尚吾
竹内 俊彦
舘 秀典
稲垣(藤井) 勉
澤海 崇文
北澤 武
若山 昇
外山 美樹
小林 輝美
湯 立
三和 秀平
海沼 亮
澄川 采加
浅山 慧
2021-07-21
赤堀 侃司
加藤 由樹
加藤 尚吾
竹内 俊彦
稲垣(藤井) 勉
澤海 崇文
北澤 武
若山 昇
宇宿 公紀
安西 弥生
外山 美樹
小林 輝美
湯 立
三和 秀平
海沼 亮
澄川 采加
浅山 慧