CRETから、最新の教育・テストに関する世界の動向などをお届けします。
シンポジウム「これからの日本の教育のあり方」を終えて
教育テスト研究センター(CRET)/ベネッセ教育総合研究所(BERD) 理事長 新井健一
去る2016年12月15日に、東京大学の福武ホールで掲題のシンポジウムを開催し、多くの方々にご参加いただきました。PISA2015やTIMSSの結果、さらに新課程やOECDのEducation2030の動向なども踏まえて、その先の日本の教育のあり方を考えるという趣旨で、国内外からキーパーソンをお招きし、示唆に富む意見を頂きました。
シンポジウムの冒頭でも申し上げましたが、私どもでは2010年前後にキーコンピテンシーの見直しを行いました。始まりは2006年のことで、世界標準の能力だけでなく、成熟していく日本を考えた時、キーコンピテンシーだけでいいのかという疑問からのことです。その結果出てきたのは、「社会との関わりを通して、美意識や価値観を確立する力」でした。つまり美意識、価値観、社会との関わりといった現在Education2030で議論されている内容とよく似た議論が行われていたのです。そして、そこから10年が過ぎ、国内外ともに新たな課題も様々に見えてきたため、2030年のその先の社会と、日本のような成熟した国の教育のあり方を、改めて考え直す機会にしたいと考えました。
PISA2015では科学がメインでしたが、読解の順位が下がったためにメディアの関心はそちらに向きました。しかし、林先生に分析いただいたように、読解がメインの2009年とは状況が異なるため解釈は難しいと思いますし、CBTの影響が予想以上に高かった可能性があります。PISAの読解は、「情報の取り出し」「統合・解釈」「熟考・評価」の3領域で構成され、2009年の日本の結果は「情報の取り出し」の点が高く、あとは順に下がっていました。大学入試問題は「情報の取り出し」が中心ですが、人工知能が苦手なのは解釈や評価など、推論に関わる領域ですのでこれは今後の課題かもしれません。フンケ先生からは、クリティカルシンキングとシステムコンピテンシーの重要性、レーフ氏からは国際比較のそもそもの目的と自国に必要な調査研究の重要性についてお話いただきました。また、日本からは、岸先生から教員養成と授業実践、白水先生からは教育改革、評価観、学習観の変革のお話をいただき、パトリックさんからは、シンギュラリティ社会と好奇心を持つことの重要性についてお話しをいただきました。
PISA2015に参加した子どもたちは、シンギュラリティの頃には45歳、社会の中心です。課題先進国である日本は、今回の議論を受け止め、PISAという標準的なスケールだけではなく、成熟社会が求めるスケールを考える必要があると思います。
今回は、各分野で先導的に活躍されているご登壇者の方々から自由にご発言をいただき、まとめにはこだわりませんでしたので、ご自身で仮説を立てたり、新たな課題を見つけたりという方には適していたかもしれませんが、何か答えを求めてこられた方には物足りなさがあったかもしれません。どちらにしても、今後も引き続き考えていきたいと思いますので、ぜひ積極的なご意見をいただきたく、よろしくお願いします。
(2017.1.10)
◆シンポジウムのプログラムおよび当日資料はこちら
[イベント]CRET/Benesseシンポジウム2016 これからの日本の教育のあり方~ポスト2030を見据えて~