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Excelではじめる社会調査データ分析
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松原 望/松本 渉[著] 丸善出版(2011年12月) 本体価格:2,940円 |
ベネッセコーポレーション 岡部 悟志
本書は、多くの生データや分析事例を紹介しながら、身近にあるExcelの機能を活用したデータ分析の仕方や分析手法、分析結果の見方などについて解説したものである。一読してみると分かるように、本書は単なるExcelを使った統計処理のテキストではない。社会調査士資格の科目のカリキュラムに対応した内容を扱っていることからもわかるように、社会調査をする際のごく一般的な基礎知識(サンプリングに関する概念枠組みや手順など)から、分析をする際に頻繁に用いる統計的概念や手法(相関係数や回帰分析など)の説明まで網羅している。初学者だけでなく、社会調査の経験者にとっても、概念の定義を再確認したり、基本的な知識を体系的に整理したりする際の、格好のテキストといえるだろう。
本書は、8章で構成されている。
第1章「調査データの記述」では、社会調査をする上でもっとも重要な工程の1つであるサンプリングの手法や、調査項目を作成する際に必要な調査データの種類や尺度構成に関する基礎知識などが紹介されている。Excelを駆使したデータの扱い方や分析の仕方は、おもに第2章「調査データを読む―単純集計」より解説されている。この章では、対数変換なども紹介されており、一定の数学の知識が必要とされるが、理解を助ける事例も豊富でわかりやすい。第3章「調査データの要約」では、平均値や中央値、分散といった概念、それらを用いた数値要約の意義などが説明されている。数式が登場する場面も多くなるが、事例も具体的で読みやすい。
第4章「調査データのクロス集計」、第5章「二変数データの分析法―相関と回帰」、第6章「クロス集計の分析法」は、おもに2つ以上の変数の関係を分析する方法が解説されている。社会調査データを分析する実際の場面では、2~3つの変数のクロスをとって分析することが頻繁にある。実践で使う場面が多いといった点でこれらの章は重要であり、解説も丁寧にされている点は高く評価することができる。
最後に、第7章「分析視点の深化」、第8章「さらに発展した分析にむけて」では、より分析を深めるために知っておくべきこと(第3の変数の影響やより高度なデータ分析手法の紹介など)について解説を加えている。本書を通じて、さらに分析を深めたいと考える意欲的な読者にとって、刺激になる章といえる。
全体を通して、本書は、社会調査や統計分析の初学者か経験者かを問わず、また、分析にエクセルを使うことを目的としているか否かによらず、読み進めていくと、社会調査の分析を行うために必要な様々な知識をキャッチアップすることができる良書である。ただ、Excelの具体的な操作方法については、文章中に操作指示が挿入されていることが多いため、やや分かりにくさを感じる。Excelを駆使した統計分析を中心に学びたいと考える人は、その点だけ、注意が必要かもしれない。
いずれにせよ、多様な読者層の要望に対応できる、良書と評価できるだろう。