CRETの学会レポート Colomn

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第11回KG-RCSPセミナー 参加報告
~日韓IATの試み: 二国間比較実験から~

兵庫県西宮市の関西学院大学にて、2016年8月8日に開催された第11回KG-RCSPセミナー「日韓IATの試み: 二国間比較実験から」(講演者: 小林哲郎氏)に参加しました。

 

CRET相川研の藤井班では、潜在連合テスト(Implicit Association Test: IAT)という測定法を用いて研究を続けています。本セミナーの題目にIATという言葉が入っていたことや、二国間の比較という内容にも興味が湧き、参加を決めました。

 

IATはもともと、白人が黒人に対して持つ偏見を測定するために提案された測定法ですが、開発以後は応用範囲が広がり、自尊心やシャイネスなどの自己概念(自分に対する考え方)を測定する際にも用いられています。さらにIATは、国に対する態度を測定するという目的にも用いられており、心理学のみならず政治学でも適用されつつあります。

 

本セミナーでは、日本と韓国の両国で行われたオンライン版の日本―韓国短縮版IAT(Brief Implicit Association Test: BIAT)のデータを元に、ナショナリズムや領土問題に関する態度との関連から、その有効性について議論されました。

 

IATは、従来用いられてきた質問紙のような直接的な測定方法(テスト)ではなく、対象概念と評価との結びつきを間接的に測定するテストです。例えば、ある参加者が、韓国に比べて日本をどのくらい肯定的に評価しているか(国と肯定的度合いとの結びつき)、ということを研究者が検討したいとします。この場合、二種類のカテゴリ分け課題を実施します。一つ目の課題は、PCの背景の左上に「日本 または 良い」、右上に「韓国 または 悪い」と表示されており、スクリーンの中央に連続して単語または画像が提示されるものです。例えば、中央に日本の首相の顔画像が提示された場合、これは「日本」カテゴリに属するので、左側のカテゴリに分類するためにキーボード上の指定されたキーを押して反応します(例えばFキー)。一方、画面中央に「卑しい」という単語が提示された場合、これは「悪い」カテゴリに属するので、右側のカテゴリに分類するために、事前に指定されたキーを押して反応します(例えばJキー)。これが一つ目の課題で、続く課題では組み合わせが変わります。

 

要するに、PCの背景の左上に「日本 または 悪い」、右上に「韓国 または 良い」と表示され、同様にカテゴリ分け課題を実施します。これらの反応時間や誤答を測定し、スムーズに測定できた組み合わせの方が、参加者の中で結びつきが強いと考えます。このようにして、その参加者が日本に対し、韓国に比べてどの程度好意的な態度を有しているかを得点として算出することができます。

 

本セミナーで報告された研究では、伝統的なIATの代わりに、上記の短縮版のBIATを用いていました。(1) BIATで算出された国に対する態度得点、および (2) 自己報告形式の尺度(感情温度計: 日本および韓国に対する態度を問うもので、高いほどポジティブな態度を持っていると解釈される)で測定された得点を用いて、これらがナショナリズムとどう関連するか、という分析結果が報告されていました。この分析の結果、感情温度計の得点はナショナリズムと関連していたのですが、BIAT得点はナショナリズムとは関連していませんでした。

 

そこで次に、(1) (2) の各得点が領土問題に関する態度(竹島・慰安婦問題)とどう関連するかという分析の結果が報告されていました。今度は、一部の感情温度計の得点およびBIAT得点が領土問題に対する態度と関連するという興味深い結果でした。

 

その後の質疑応答のセッションでは様々な質問が寄せられていました。相川研として研究を進めていく中で、我々の研究に強く示唆を与えると思われるものが二つありましたので、ここではそれらを取り上げたいと思います。一つは、講演者がBIATで用いた刺激等はスタンダードなものなのかという質問です。相川研ではBIATはまだ使用したことがないのですが、IATに関しても同様の疑問が何度か話題に上ったことがあります。つまり、IATでのスタンダードな使用単語や試行数は決まっているのかということです。IATは、使用単語を変えるだけで結果も変わるということも先行研究で示唆されており、まだ結論の出ていない分野だといえます。

 

もう一つの質問は、本当にBIATを併せて測定する意義があったのかという点です。本セミナーで報告されたBIATを含めた分析は、それを含めなかった分析と比べて、ナショナリズムや領土問題に対する態度の予測力があまり上昇しなかったという結果で、BIATというテストを参加者に課すコストに見合った成果が得られたかは疑問の余地が残ります。この指摘は、我々の研究に対しても同様の示唆を与えると思われます。IATという測定法を行うことで、そのコストに対する効果がどのくらい上がるのかということは、常に意識しないといけないと感じました。

 

講演者の小林氏は私の先輩でもあり、講演後には個人的にお話しさせていただきました。現在は香港城市大学という香港の大学に勤務しており、海外でも活躍なさっている研究者です。論文業績も非常に多く、私が尊敬する研究者のうちの一人です。今回、小林氏の研究の一部を知ることができたと同時に、我々の研究グループが長い間使ってきたIATに小林氏も研究関心を持っているということを知り、大変実りのあるセミナーでした。

 

日韓IATの試み: 二国間比較実験から

(講演者: 小林 哲郎)

 

(CRET連携研究員 澤海 崇文)

澤海 崇文 -Takafumi Sawaumi-

CRET連携研究員、東京大学大学院 人文社会系研究科 博士課程

趣味: テニスやヨガなどで定期的に体を動かすようにしています。語学学習にも励み、海外旅行も人生の楽しみの一つです。

研究テーマ:対人コミュニケーションやパーソナリティに興味があり、それらの比較文化研究が専門です。

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