CRETのコラム Colomn

CRETから、最新の教育・テストに関する世界の動向などをコラムとしてお届けします。

PISA2012からの示唆

教育テスト研究センター 理事長 新井 健一

 

 OECDが実施しているPISA2012の結果が報告された。日本はOECD加盟国中、数学的リテラシー2位、読解力1位、科学的リテラシー1位という結果で、PISAショックといわれたPISA2003から過去最高レベルまで回復したことを示した。非加盟国を入れると、上位は上海、シンガポール、香港などのアジア勢が占める結果となった。また、コンピュータ使用型のデジタル数学的リテラシー、デジタル読解力の調査が実施され、上位の国は同様の顔ぶれとなった。学力世界一といわれたフィンランドは、読解力、科学的リテラシーは日本と同程度であったが、数学的リテラシーはやや順位を下げた。

 

 日本の習熟度レベル別の割合は、レベル1未満が2000年調査と同程度まで減り、レベル5以上の割合は過去最高となった。平均無答率はOECD平均とほぼ同じであるが、経年ではわずかながら減少している。こうした回復の背景には、学習指導要領や教科書と質の高い教員によって、高いレベルで標準化された教育が、全国津々浦々まで保証されているというシステムの存在がある。そして、PISAショックの前年2002年には、文部科学省はそれまでの学力低下傾向懸念に手を打つ形で「学びのすすめ」の学力向上策を打ち出し、その後も言語力向上、全国学力調査など、学力向上策を打ち出していった。こうした政策が日本の教育システムに乗ることで、今回の成果につながったことと思う。また、日本は、教育機会の平等性が確保されている点でも優れており、このような日本の優れた点は、今後も継承すべきことであると思う。

 

 しかし課題はある。学習への興味関心、学習が将来にとって重要という意識が、改善されたとは言え、依然OECD平均をはるかに下回っている。「数学についての本を読む」「数学で学ぶ内容に興味がある」という質問はそれぞれ17%、38%と特に低い。また、「将来つきたい仕事に役立ちそう」「将来の仕事の可能性を広げてくれる」など社会的有用性を感じている割合は、調査国中もっとも低い。また、PISAでは、解答にあたりどれくらい頑張ったかという努力値を自己評価させているが、これも調査国中最も低い。得点は高いが意欲は低いという傾向が続いていることになる。このことが、将来も受け身の学び方になり、生涯学習時代の敗者になることに繋がりはしないか、積極的に社会と関わるような人材に育ってくれるかと懸念される。日本人の控えめな国民性が調査結果の背景にあるという論もあるが、グローバル時代には控えめな行動を容認してはくれない。学習指導要領と教科書に頼るだけではなく、座学と現実を結びつける工夫や、主体的に考えさせる授業設計などを通して、学びの有用性を理解させ、主体的な学びを引き出すことが求められる。日本の高い教育水準を、将来、社会での実践に活かせるように繋げていかなくてはならない。(2013.12.10)

新井 健一 -Kenichi Arai-

教育テスト研究センター(CRET) 理事長 / ベネッセ教育総合研究所 理事長

コラム

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2016-04-07

CRET/BERDシンポジウム2016

新井 健一

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