CRETのコラム Colomn

CRETから、最新の教育・テストに関する世界の動向などをコラムとしてお届けします。

PIAACからの示唆

教育テスト研究センター 理事長 新井 健一

 

 先日、OECDから国際成人力調査(PIAAC)の結果が公表された。24カ国の16歳から65歳を対象に、読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力の3分野について訪問調査が行われ、日本がトップの成績であった。PIAACは、このようなスキルそのもの評価と、学校教育、経済的・社会的成果との関係を明らかにして、政策に活かすことを目的としている。報告書では、PIAACと賃金、政治的効用感、ボランティアなどの経済的・社会的成果とは正の相関があるとしている。また、PISAとPIAACは内容も方法も異なるため、直接の比較はできないが、PIAACが上位の国は、PISAも上位に位置しているため、学校教育の影響は大きいと考えられる。したがって、今回PIAACで調査されたスキルは、成人に必要で重要なスキルであるとともに、学校教育とも関係が深いと言える。そのような調査において、日本がトップであったことは喜ばしいことである。しかも、人口が一億人規模の国は日本しかない。その上、人口規模が大きいと地域差などのため分散が大きくなる傾向が出ることがあるが、日本は高いレベルで上位と下位の差が小さいという結果である。これは、日本の全国津々浦々までカバーする高いレベルの学校教育システムと、社員教育のようなフォーマルな社会教育、新聞、テレビ、書籍、インターネットなど、日々接するメディアによるインフォーマルな社会教育が機能している結果であると考えられる。

 

 

 しかし、課題が無いわけではない。年齢別に分布をみると、OECD平均と日本の傾向はよく似ていて、16歳から30歳位にかけて上昇し、そこから加齢とともに下降する。日本はいずれの年齢も読解力と数的思考力についてはOECD平均を上回っているが、ITを活用した問題解決能力は、年代別にみると16歳からの若年層と60代以降がOECDのほぼ平均レベルで、職場での実践経験となるとOECD平均以下である。実践経験という点では、アメリカやオーストラリアなどのほうがOECD平均より高い。問題解決能力は、これからの社会に求められる重要なスキルであるし、知識があっても実際に解決できなければ意味がないので、この点で日本は課題である。業務の中でITを積極的に活用して問題解決していくようにするとともに、そのような基礎づくりのため、学校教育にも取り入れて、十分に経験させておくことが必要だ。さらに、今回の結果を手放しでは喜べないことは、調査された範囲の結果であることだ。成人力とはいえ、たとえば科学的思考力、創造力、イノベーション力、英語力のようなスキルなどは今回は調査していないため、当然のことながら評価はできない。相関はあるかもしれないが、それは何とも言えない。したがって、喜ぶのは調査された範囲にとどめ、冷静にとらえることが重要だ。

 

 近年、日本の雇用制度が変化しているため、企業による社会教育の役割がいつまでも同じように続くとは限らない。今後は、企業内で流通するスキルから、企業間で流通するスキルを学べるような、生涯学習社会を支える新たな社会システムの模索が必要になる。現在、国際比較で、25歳以上の大学入学者比率が極端に少ない日本の大学であるが、リソースは整っているはずである。このような機能を担えるよう、今後の大学に期待したい。(2013.11.13)

新井 健一 -Kenichi Arai-

教育テスト研究センター(CRET) 理事長 / ベネッセ教育総合研究所 理事長

コラム

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2016-04-07

CRET/BERDシンポジウム2016

新井 健一

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CRETの研究領域

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